大判例

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鹿児島地方裁判所 昭和47年(わ)31号・昭47年(わ)53号 判決

被告人 平野瑞穂

昭七・一〇・五生 会社役員

主文

被告人を懲役一年二月に処する。

押収してあるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤粉末一袋(昭和四七年押第二四号の一)を没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和四六年六月一八日午前六時ころ、鹿児島市小野町八二八番地自宅和室において、当時妻であつた平野淳子(二四才)に対し、同女が被告人と離別するということで搬出する家財道具を取りまとめていた際の言動に憤激し、手拳およば平手で同女の顔面を数回殴打したうえガラス製灰皿を同女の頭部に投げつけ、よつて同女に加療約一か月間を要する左側頭部切挫創の傷害を与えた。

第二、法定の除外事由がないのに、昭和四七年一月七日、鹿児島市下荒田町七三八番地の一みずほ商事事務所内の自己の机抽出に、フエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤粉末約一八・二一グラム(昭和四七年押第二四号の一)を隠匿所持していた

ものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯前科)

被告人は、昭和四〇年二月一五日、鹿児島簡易裁判所において、窃盗、賍物故買罪により懲役三年および罰金五、〇〇〇円に処せられ、昭和四三年一月四日に右懲役刑の執行を終了したもので、右の事実は、検察事務官作成の前科調書により認めることができる。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は刑法第二〇四条、罰金等臨時措置法(昭和四七年法律第六一号による改正前のもの、以下同じ。)第二条、第三条、刑法第六条に、第二の所為は覚せい剤取締法第一四条第一項、第四一条第一項第二号、罰金等臨時措置法第二条、刑法第六条に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、前示前科と再犯の関係にあるから刑法第五六条第一項、第五七条により累犯加重をし、右各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文、第一〇条により刑の重い傷害罪の刑に同法第一四条の制限内で法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一年二月に処し、押収してあるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤粉末一袋(昭和四七年押第二四号の一)は判示第二の罪に係るもので被告人が所持していたもの(刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法第二条第二項第三項の手続済)であるから覚せい剤取締法第四一条の五本文により没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により被告人に負担させることにする。

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、

(一)  判示第二の事実につき、本件覚せい剤粉末一袋は、被告人以外の者らに対する窃盗等被疑事件の捜索の際ついでに発見されたもので、何ら管理処分権を持たない被告人方の従業員松林省三から任意提出を受けた形式を整えているけれども、実質的には憲法第三五条に違反した捜索手続により収集されたもので、証拠としての許容性がない。

(二)  判示第一の事実につき、本件は、事件発生後七か月有余して捜査機関が被告人と被害者の夫婦別れの際のいざこざに関し告訴状を出させたことにはじまるもので、可罰的違法性がない。

から、被告人はいずれも無罪である旨主張するので、この点に関する裁判所の判断を示すことにする。

二、(証拠略)を総合すると、次のような事実が認められる。

(1)  鹿児島中央警察署司法警察員ら五名は、昭和四七年一月七日午前一〇時三〇分ごろ、石牟礼某ほか二名(被告人は含まれていない)に対する窃盗、公印不正使用被疑事件につき判示第二の被告人方事務所を捜索場所とする捜索差押許可状(鹿児島地方裁判所裁判官発付)に基づき、右事務所内に立ち入り、被告人方従業員松林省三を立会人として捜索を開始した。

(2)  松林省三は、昭和四六年八月ごろから被告人の許で働くようになつたもので、営業課長の肩書付名刺を持つていたが現実に管理職の仕事を分掌していたわけではなく(個人企業で従業員数も僅かであつたもの)、被告人が不在のため自ら金庫の扉を開けるなど素直に立会いをしていたが、被告人の机の左右各二個の抽出の鍵は保管していなかつた。

(3)  被告人は、同日午前一一時三〇分ごろ右事務所に出勤し、前記司法警察員らと松林省三が被告人の机の抽出の件で問答している時期において、その一人から「鍵があつたら開けて欲しい」旨依頼されるや、これに応ずるかのように「鍵をとりに行つてくる」旨言い残し、直ちに右事務所から出て自動車に乗り走り去つてしまつた。

(4)  そこで司法警察員らは、被告人の机の抽出を強く引つ張りガタガタさせたところ、いずれも開けることができ、左上段から二段目抽出よりメモ帳二冊、右上段から二段目抽出より国道三号線バイバス予定地図青写真一枚、メモ帳一冊の各目的物を発見押収したが、その際右青写真一枚などのあつた抽出内から本件覚せい剤粉末一袋(その時点では覚せい剤ではないか、との疑いをもつた粉末一袋として扱つた)を発見したので、当座小切手帳三冊など捜索差押許可状に記載の目的物件外と思料される帳票類とともに松林省三に任意提出を作成させ、これら物件を領置した。

刑事訴訟法第二二一条によれば、司法警察職員は、保管者が任意に提出したものは領置できることになつているけれども、同条に基づき領置した物でも押収の効果は生ずるので、当該物件の保管者の立場にあるか否かの判断は慎重になされるべきであつて、本件覚せい剤粉末一袋については保管状況からして被告人の私物の外観を呈していたものであるから、直ちに差押許可状の発付を請求する等の手続をとるのが本筋で(国家公安委員会規則第二号犯罪捜査規範第一五四条参照)、前記松林省三を本件覚せい剤粉末一袋の保管者と同視して任意提出させたのは行き過ぎであるといわざるを得ない。

しかしながら、右任意捜査の手続上の誤りは、前記(1)ないし(4)の各事実とあわせ考えれば、適法な令状に基づく捜索過程で生じたもので被告人の住居の安全平穏を侵害したというものではなく、松林省三に任意提出するよう強制を加えたものでもないので、本件覚せい剤粉末一袋の証拠の許容性を奪うほどの重大な瑕疵であるとまではいえない。

加えて、被告人は、前記(3)に認定のとおり本件捜査に立ち会う機会を得ながら、自らその場を立ち去つてしまい、本件第一回公判期日においても、本件覚せい剤粉末一袋の証拠調に何らの異議も述べず、弁護人も前掲判示第二の各証拠書類などすべての書証を証拠とすることに同意し、適法な証拠調が済んでいる。

三、前掲判示第一の各証拠によれば、被告人と被害者との婚姻関係は、被告人の女性関係、外泊などにより破綻をきたし、現に離別する当日の事件であつて、被害者自身には被告人の処罰を積極的に求める気持のないことは認められるけれども、暴行の態様、傷害の部位程度とあわせ、通常の家庭内における夫婦間の軽微な事件と同視することはできず、可罰的違法性がないということはできない。

以上の理由により、弁護人の前記各主張はいずれも採用できない。

よつて、主文のとおり判決する。

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